無人島に持っていく10枚
大学時代、さる先輩から「どんな音楽が好きかわかんない」と言われたことがある。前後の文脈は割愛するが、随分な物言いだな、と感じた。
私のアピールが足りなかったか、その人に私の話を聞く気がなかったかはわからないが、限りなく原因は前者であろうとは思うので、2019年9月の私の自己紹介代わりにいわゆる『無人島に持っていく音源10枚』を書く。
インターネットジャンキーなので電気もない孤島に行くと思うだけでぞっとするため、選考基準は「1ヶ月Apple Musicで10枚のアルバムにしかアクセスできないとしたら何が残っていたら嬉しいか」にした。ベスト盤やライブ盤が残っていたら嬉しいに決まっているので除外した。衣食住が満たされて、その他娯楽と比較できるようになってからこその音楽であると思う。
Tycho / Awake
今までで最もアルバムを通しで再生した回数が多い1枚。進路間違えたなあ……と日々思いながら専門のレポートに忙殺されていた大学3年の私にずっと寄り添ってくれた。アルバム名とジャケットの通り夜明けが似合う。どちらかというと完徹した時の夜明け。
曲でいうと『See』が一番好き。途中で展開が変わる頭に入るアコギと手拍子の「腑に落ちる」感覚は無二であると思う。STRFKR / Miracle Mile
名義に表記揺れがあった頃というかこの頃はまだStarfuckerだったような気がする。
浮遊するポップ感。こういう地に足が付いていない感じは音楽以外のものでも好きな傾向にある。
根暗なパリピ向けのダンスミュージック。ライトの当たるところだけがステージじゃないんだなって思う。LOSTAGE / In Dream
このバンドに関しては最新アルバムを選ぶと思う。
LOSTAGEで最も好きな曲は『楽園』で、もちろんCONTEXTも好きなアルバムだが、「全部ラブソングのつもりで作っている」と言い切られて何もかもを信頼しきっているから一番新しいものを撫でていたくなる。
初聴の時は『ポケットの中で』が一番のお気に入りで、ずっと口ずさんでいるのは『僕のものになれ』ROTH BART BARON / HEX
ロットバルトバロンの氷河期、なんて名前のアルバムを出しているから冬のイメージがあるバンドだったが、これは春から夏になる雰囲気がある。
歌詞に出てくる2人の関係が薄氷のごとく壊れそうなのに皮膚感覚に訴えてくるような関係だったのも冬のイメージを補強していた(e.g.『アルミニウム』『蝿の王』)。
雑な思考で、全部卒業ソングになるなあなんて思っていた。外を指向しているのに内省的。
この間のライブで聞いた新曲はさらに温度を上げていたので今から指折り数えてリリースを待っている。椿屋四重奏 / CARNIVAL
14歳の頃から好きなバンドで、CARNIVALでようやく「椿屋の新譜を買う」という経験ができたように記憶している。
歌謡曲の血を引いたゴリゴリのギターロック。そしてとにかく歌が上手い。
アルバムタイトル通り、全曲お祭りのような疾走感がある。
歌詞があまりに大人の恋愛で、いまだによくわかっていない箇所もなくはないが、心地よいから愛ではあるのか?などと思っている。Death Cab for Cutie / Narrow Stairs
PLANSは押しも押されぬ名盤で、KintsugiもThank You for Todayも素晴らしいアルバムなのは知っていてどれも大好きだが、『No Sunlight』と『Cath...』に受けた恩は一生かかっても返せない。
『Takling Birds』で辛気臭いな、曲変えようと再生をやめてしまうことが多いが、たまに気付いたら『Grapevine Fires』が流れている時があって、その場合は最後まで聞いてしまう。
研究室にいた頃は同期の進捗状況を見て You can do better than me, I can do better than you って思う時があった。精神を救うすりこみだ。Cloud Nothings / Cloud Nothings
今年の来日を見に行ったが音質が軽音楽部の定期演奏会だった。安定感しかない。
「どうやってもCDが手に入らない」を初めて経験させてくれたバンドだった。Turning OnのうっすいCDジャケットを手にした時の、壊れ物を掴んでいるかのような感覚は忘れがたい。
基本的にブレーキの効きが悪いバンドだと思うが、これは特にポップさにハンドルを振り切ってアクセルをベタ踏みしている。
そのせいかはわからないがライブでこのアルバムからほぼやらなかった。『Should Have』を生で聞くまでは迂闊に死ねない。Bon Iver / i,i
『U(Man Like)』にかなり衝撃を受けた。夜勤明けの寝床でまんじりともせずに繰り返し聞いていた。
このアルバムのおかげで過去作のメロディアスさを捉えられるようになった。というかカントリーやっていたのに一発で理解できなかったの、自分がいかに表面的なノリ以外のものを聞いていなかったかを突きつけられてちょっと嫌になった。
業としての音楽との付き合い方をその身を挺して伝えてきてくれる。9mm Parabellum Bullet / Revolutionary
自分がギターを持つきっかけになったバンドの1つ。でも滝善充になりたいとはあんまり思わない。
このアルバムが出る前から『Black Market Blues』やら『命ノゼンマイ』をヘビロテしていたのに思い返すは『キャンドルの灯を』のことばかり。曲がコンパクトにまとまっているためだと思う。
冬にやったらVampireを選んでいたかもしれない。『悪いクスリ』のベタ雪っぽさ。THE BACK HORN / パルス
優しく人間を断罪していく曲しかない。
自分がこのアルバムならきちんと歌えるからかもしれない。だからうろ覚えでいたくない。